あしたの鉄人

戦々恐々の日々

往来


 ここ数週間、頻繁に人に会っている。

 目前に迫った夏の気配に少し浮き足だっている所為かもしれない。

 それは必ずしも僕だけに限った事ではなく、「会わないか?」と誘ってくれる人達がこの時期に重なると言うのは、人の気分を高揚させる何かがこの時期にはあるのかもしれない。

 とにかく僕は、梅雨時期の湿った空気の中で様々な人達と会っている。

 昔、深く関わった人達や今、同じ時間を共有している人達まで様々な人達と色んな場所で会い他愛もない話をする。

 突発的に気持ちの準備がなく行った酒席で、思いがけず心が揺り動かされる様な事があったりした。

 何とも贅沢な時間を過ごしているなと言う実感がある。

 昨夜も近くにある居酒屋で友人と会った。

 すっかり懐の寂しくなった僕に変わり、その友人が酒代を出してくれた。

 数年前、長く続いたある時期を終え、僕は職業訓練学校に通った。

 その時の友人で、彼とは家が近所と言う事もあり今でも頻繁に会う仲だ。

 職業訓練学校時代の友人達には何か特別な思いがあったりする。

 同じ会社にも何人かこの時の友人達がいるのだが、部署も違うし敷地も広大なので中々、顔を合わせる事はない。

 たまに仕事中、敷地内ですれ違ったりする時はお互い何故か半笑いで目だけを合わせたりする。

 「今日も残業か?お互い頑張ろうや」

 口に出さずとも、そんなニュアンスが伝わってくる。

 昨夜は久しぶりに友人と差しで飲んだ。

 お互いの仕事の話や、訓練学校時代の知人の話、家族の話、桑田と清原の話等を経て何故か話題は、太宰治の悪口になった。

「太宰は生き方がダサいわ!坂井三郎や小野田さんと同じ時代を生きたと思われへん!」

 と僕が酔った勢いで宣うと友人が笑いながら聞いてくれた。

 僕は酔うと必ず文学の話をし、どの友人達もそんな面倒くさい話に巧く付き合ってくれる。

 僕達は、店を出てぷらぷらと歩き拘置所の近くの橋で別れた。

 また夏に飲もうと約束した。